日本の言葉には、感情や考えを豊富に伝える能力があるとよく語られます。漢字という文字体系は、多彩な形と意味を持っており、それらを組み合わせて新しい意味を持つ言葉が生まれます。
同じ発音でもまったく異なる意味を持つ単語もあり、これは学校の授業で皆が一度は学んだことでしょう。同一の概念を指す際にも、異なる漢字が使われることがあり、選択に頭を悩ませることもあります。
今回は、「悲しい」と「哀しい」という単語に焦点を当て、これらの単語の微妙な違いと、それぞれの状況での適切な使い方について解説します。
「悲しい」と「哀しい」の意味はどう違う?
“悲しい”は、深い悲痛が胸を貫くような感覚を描写します。
この単語は標準的な漢字表記に含まれており、正式な文書(例えば新聞)でよく見かける表現です。”悲しい”が”哀しい”より頻繁に使われる傾向にあります。
“悲”の字には”非”の要素が含まれており、これは二つのものが離れ離れになる状況を象徴しています。したがって、”悲しい”は心が分断されるような痛みを暗示しています。
たとえば、お気に入りの衣服が汚れた時など、深い失望感を表現する際に”悲しい”を使います。
一方で”哀しい”は、胸が圧迫されるような痛切な感情を示します。
この言葉は詩的な文脈や、より個人的な感情を表す際に使われることが多いです。
家族の死など、深く個人的な悲しみがある場合に”哀しい”を用いるのが適しています。”哀”は標準漢字ですが、”哀しい”は標準漢字としての指定は受けておらず、公式の文書での使用は避けられる傾向にあります。
“哀”の字は内に秘めた感情や悲しみを表し、それが言葉にならずに心に留められる様子を描写しています。
実は「悲しい」「哀しい」以外にも「かなしい」漢字がある
実はもう一つある「かなしい」が「愛(かな)しい」です。
「愛しい」と表記されると通常、「いとおしい」と読まれることが多いです。
しかし、日本語には古風な用法が残っており、時として「かなしい」と読むことがあります。
文学作品などでは「愛し(かなし)」という形で使用されることがあります。
この言葉の意味は、深く愛おしく感じる、または愛らしさが心に深く染み入ることを意味します。
現代では、「愛」という言葉は”LOVE”の感情を強く想起させますが、辞書での定義を見ると、愛情を示すさまざまなニュアンスが存在します。
愛情を表すいくつかの意味:
- 慈しみ
- 思いやり
- 慕情
- 惜しむ
こうした多様な意味合いが見て取れます。
“愛しい”と”悲しい”の違いは、”愛しい”には愛情を寄せる対象が存在するという点です。
一方で”悲しい”は、
- 競争に負けた時の悲しみ
- 痛みによる悲しみ
のように個人的な感情として用いられます。
しかし”愛しい”は、対象が必ず存在し、その対象への強い愛情や愛らしさを表現する際に使われます。
この表現は子どもや恋人など、深い感情を抱く相手に対して用いられることが多いです。
まとめ
「悲しい」と「哀しい」には厳密な区別はありませんが、公式文書では「悲しい」が好まれ、「哀しい」は避けられることが多いです。「悲しい」は常用漢字であり、「かなしい」と読まれるのに対し、「哀しい」はその読みが常用漢字表外音訓で認められていないため、公式文書での使用は控えられます。
一般的な使い方では、「哀」の字に関連する言葉には「哀れ」や「哀愁」といった印象があり、「かわいそう」や「寂しい」といった感情を表す「かなしい」に使われることがあります。また、詩的な文脈や個人的な感情を伝える際には「哀しい」が選ばれます。
漢字の構造を見ると、「悲」の字の中の「非」は反対方向に開いた羽が分かれることを意味し、心が痛んでいる状態を象徴します。「哀」は「口」と「衣」から成り立ち、感情を抑えてしまう様子を表し、内に秘めた感情を詩的に表現するのに適しています。
「かなしい」という言葉は「悲しい」や「哀しい」だけでなく、「愛しい」としても存在します。歴史的には、「いとしい」「かわいい」など、強い感情を引き起こすさまざまな状況を表現するために使われてきました。このため、「愛しい」としても表記されることがありました。